2023年10月22日
押すか押されるか
初めてバスの降車ボタンを押すときは緊張した。
本当にこのバス停でいいのか。
まだ押すのは早いのではないか。
自分の意思を車内全体に伝える勇気が必要だった。
回転ずしで店員さんに初めて直接注文した時も緊張感があった。
流れてくる寿司には満足せず、自分の主張を貫く意思の強さが求められた。
さらに「さび抜き」という特別なオーダーを臆せず言えるのか。
生きる力が試されていた。
子どもが家族以外との社会とつながる瞬間といえば大げさだけど、
どっちも大切な成長への階段のように思う。
今では回転ずしの方はタッチパネルの注文が主流となり、
その勇気はもう必要なくなっている。
少し寂しい。
恋人の家に電話をかけて親が出た時の思い出を語る親世代のような気持ち。
一方で、路線バスのシステムは今も変わっていない。
今思えば降車ボタン自体がタッチパネルのようなもんだし、きっとかつては運転士に直接声をかけていた時代があるのだろう。それに比べれば元からイージーモードだ。
ただ、押すタイミングは今も少し悩む。
バス停名が告げられてすぐに押すのはガツガツしているようだし
押そうと思った瞬間、ほかの人に押されてしまうのはちょっと悔しい。
押すのか、それとも押されるか。
人知れず、小さなチキンレースを毎日繰り広げている。